事業計画及び成長可能性に関する事項_株式会社モンスターラボホールディングス(2023年3月28日)

この記事は、株式会社TOITOITO堀さん(ホリソウ@horisou)に寄稿いただきました。

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こんにちは。TOITOITO堀(ホリソウ@horisou)です。

毎月1〜2回ほど、インクデザイン株式会社のウェブサイトにグロース市場に新規上場した企業の「事業計画及び成長可能性に関する事項」についてレビューしています。

本日紹介するのは、株式会社モンスターラボホールディングス(以下「モンスターラボホールディングス」といいます)。モンスターラボホールディングスの特徴のひとつは、世界20ヶ国・33都市に拠点を展開し、世界中で1,500人の体制を構築していること。彼らがどのように成長可能性を見出し、事業を展開していこうとしているのか、詳しく見ていきましょう。

株式会社モンスターラボホールディングス(上場日:2023年3月28日)

https://www.nikkei.com/nkd/disclosure/tdnr/20230327536778/

*

目次(仮)
・株式会社モンスターラボホールディングスの事業内容、沿革
・何が成長要因になっているか(成長可能性と見込んでいるか)
・市場の見方について
・今後の課題

①株式会社モンスターラボホールディングスの事業内容、沿革

モンスターラボホールディングスは、2006年2月に東京都小金井市に音空株式会社として設立されました。2006年7月から個人向けインターネット音楽配信サイト「monstar.fm(モンスターエフエム)」をローンチ、その後も店舗向けBGM配信サービス「monstar.ch(モンスター・チャンネル)や、グローバルソーシング事業「セカイラボ」など、ソフトウェア開発を中心に事業を展開していきました。

現在のモンスターラボホールディングスの主力事業は、デジタルコンサルティング事業です。2022年度売上142億円のうち、95%にあたる135.5億円の収益をあげています。

モンスターラボホールディングスは、得意領域として「イノベーション創出や売上向上型DX」を挙げています。デジタルコンサルティングを「新規事業か、既存事業か」「イノベーション創出か、コスト削減か」の2軸で分け、競合であるシステム開発会社や総合コンサルティングファームと区別しようと務めています。

設立から培ってきたソフトウェア開発のノウハウや、海外拠点に在籍するエンジニア人材の開発力。戦略策定からデータ解析、プロセス最適化までを一貫して行なうのが、モンスターラボホールディングスの強みといえます。


Monstarlabについて|DX市場におけるユニークなポジショニング
(株式会社モンスターラボホールディングス(2023年3月28日)
|事業計画及び成長可能性に関する事項P17より引用)

ちなみにモンスターラボホールディングスは、2019年までは主力事業としてグローバルソーシング事業を掲げていました。一見すると、ソフトウェア開発から他社向けのデジタルコンサルティング事業へとピボットしたように感じられます。

しかしながら、ピボットというよりは事業の実情に合わせて表現を変えただけなのでしょう。実際、2016年から現在に至るまで、毎年売上高は40%増で成長しています。グロース市場への上場を見据え、自社の価値を正しくマーケットに伝えるための、施策のひとつと捉えるのが正しいと思います。


Monstarlabについて|成長の変遷
(株式会社モンスターラボホールディングス(2023年3月28日)|
事業計画及び成長可能性に関する事項P12より引用)


Monstarlabについて|
グローバルデリバリーモデル(株式会社モンスターラボホールディングス(2023年3月28日)|
事業計画及び成長可能性に関する事項P13より引用)

②何が成長要因になっているか(成長可能性と見込んでいるか)

モンスターラボホールディングの「事業計画及び成長可能性に関する事項」を読むと、「レベニューセンター」「デリバリーセンター」という聞き慣れない言葉が出てきます。しかしこれらが、彼らの成長要因を決定づけているといえます。

日本・西欧・北米を中心としたレベニューセンター。この地域には多くのクライアントがいるため、営業やコンサルティング、デザインなど上流工程の人材が配置されています。

一方で東南アジア、東欧、南米を中心としたデリバリーセンターには、エンジニア人材が配置されています。人件費を比較的低く設定できます。コスト競争力を持ちながら、レベニューセンターで扱っている案件に対応できるというわけです。

2010年前後に、Web制作会社の一部がベトナムなどに開発拠点を設ける「オフショア開発」に力を入れるようになりました。しかし、東南アジアのオフショア開発で対応できるのは、日本を始めとする時差の影響が小さいクライアントだけです。モンスターラボホールディングスは、日本だけでなく、西欧や北米など、様々な時間帯で稼働するクライアントがいます。時差の影響を抑えるために、ベトナム、フィリピン、チェコ、ウクライナ、コロンビアなど各地域に分散して開発拠点を構えているのです。(ウクライナの名前も挙げましたが、デリバリーセンターがある地域には、政情不安を抱えているところも少なくありません。複数の開発拠点を持つことは、リスク分散の観点からも正しいといえるでしょう)

また多国籍の役員が揃う経営陣を見ても、グローバルで勝負するための陣容を整えていることが理解できます。


Monstarlabについて|経営陣
(株式会社モンスターラボホールディングス(2023年3月28日)
|事業計画及び成長可能性に関する事項P14より引用)

ちなみに企業の高成長を支える人材の数は、2016年から6年間で3倍に増えています。特にベトナムでは、「インターンシップからの育成及び社員採用プログラム」を学力上位の大学と提携するというモデルが確立されています。こういった地道な取り組みをしっかり続けていることで、採用の成功につなげているのです。

③市場の見方について

これまでレベニューセンターとデリバリーセンターのふたつを比べてきましたが、実はデリバリーセンターの地域にも成長性が期待されています。

2021年〜2027年のDX市場成長率は、ヨーロッパやアメリカよりも、中東やAPAC(Asia Pacific地域)の方が高いです。APACはGDP成長率も群を抜いて高く、多くの企業にとって魅力的な市場として映っています。

既に開発拠点を置いているモンスターラボホールディングスは、1からネットワーク構築の必要がありません。現在、レベニューセンターで上流過程に携わるスタッフも、徐々に成長市場へと移っていくはず。各地域のリーダーの手腕がますます問われそうです。


大型顧客育成によるオーガニック戦略
(株式会社モンスターラボホールディングス(2023年3月28日)
|事業計画及び成長可能性に関する事項P30より引用)


大型顧客育成によるオーガニック戦略
(株式会社モンスターラボホールディングス(2023年3月28日)
|事業計画及び成長可能性に関する事項P31より引用)

④今後の課題

「新規上場申請のための有価証券報告書」によると、事業等のリスクとして以下5つの観点を挙げています。
https://www.jpx.co.jp/listing/stocks/new/cg27su0000001lw5-att/03MonstarlabHoldings-1s.pdf

①事業環境に関わるリスク(DX市場について、競合について)
②事業内容に関わるリスク(人材の確保について、外注について、開発プロジェクトの採算性について、他4つ)
③事業運営体制に関わるリスク(特定人物への依存について、訴訟等の可能性について)
④法的規制及び知的財産等に関するリスク(知的財産について、情報セキュリティについて)
⑤その他(M&A等の投融資に関するリスクについて、のれんについて、新株予約権の行使による株式価値の希薄化について、他2つ)

今回は、この中で、「その他『M&A等の投融資に関するリスクについて』」に注目しました。本資料にて、モンスターラボホールディングスが「成長の源泉地域におけるM&A」での事業成長に自信を示しているからです。

資料を読むと、2030年の売上高1,000億円超(現在は142億円)に向けて、少なくない割合でM&A経由での売上成長を見込んでいることが分かります。(※以下のグラフは「上記はあくまでイメージであり、実際の売上とは異なります」と注記されています)

成長戦略|今後の成長戦略は3本の柱で構成
(株式会社モンスターラボホールディングス(2023年3月28日)
|事業計画及び成長可能性に関する事項P22より引用)

当然ながら、M&Aにはリスクがつきものです。想定していたよりも収益性が低かったり、コストがかかってしまったり。予見できていなかった負債などのリスクまで被ってしまうという話も聞きます。

そういったデューデリジェンス(投資先の価値やリスクなどを調査すること)以外にも、シナジー効果を十分に発揮できないなど、既存組織との統合プロセスにてネガティブな影響を及ぼすこともあるでしょう。

とはいえ、これまで10社以上の海外M&Aを実施してきたモンスターラボホールディングスの実績は、ある程度信頼の置けるものだと思います。むしろリスクを負ってでも、彼らが定義している「成長の源泉地域=APAC及び中東地域)において、スピード感を持って成長するためのM&Aは、成長ドライバーとして手っ取り早いのは確かです。

こういった戦略を日本企業が取ることは、日本全体の成功体験にもなります。モンスターラボホールディングスにはM&Aの知見も可能な範囲でオープンにしていただきながら、ミッションを実現してほしいと思います。


これからもインクデザイン株式会社のウェブサイトにて、月1〜2回を目処に更新していく予定です。よければ、ぜひ覗いてみてください。

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