IRトレンド|統合報告書は“意図”で差がつく時代

更新日:2025年11月17日

参考文献

  • 味の素株式会社様引用元
  • 日本航空株式会社 (JAL)様:引用元
  • 富士フイルムホールディングス株式会社様:引用元

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統合報告書は、これまで単なる情報開示の手段と考えられてきました。しかし近年は「読む」だけでなく「体験する」場へと変化しつつあります。そちらについては前回記事をご参照ください。

見やすさへの工夫が進んできた今、次に問われているのは中身です。そこにどのような「意図」が込められているかが重要になってきています。

今回は、統合報告書に込められる「意図」についてのお話です。

統合報告書に“意図”が必要とされる理由

投資家が注目するポイントは、財務情報の数値だけではありません。

企業のパーパス(存在意義)や未来像に目を向け、どのような姿勢で経営や事業を進めているのかを知ろうとしています。もし意図が見えなければ、多くの統合報告書は似たり寄ったりに映ってしまいます。

また、統合報告書を手に取るのは投資家だけではなく、求職者や社員、さらには社会全体へと対象が広がっています。

経営や戦略に込められた思いをどう伝えるか。

その工夫こそが、これからの差別化の鍵となるのです。

事例に見る“意図”の表現

実際の統合報告書を見ると、各社がそれぞれの「意図」をどう表現しているかが伝わってきます。

1. 味の素株式会社 

https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/ir/library/annual/main/01/teaserItems1/0/linkList/0/link/ASV_Report_2025_A4_jp.pdf

CSV(共通価値の創造)経営への強いコミットメント「ASVストーリー」を起点とした構成

冒頭にある「ASV」(味の素グループ・シェアード・バリュー)を企業の価値創造の核とし、実現に向けた取り組みがどのように収益に結びつくかを詳細に説明しています。非財務情報に多くのページを割き、データとストーリーによる可視化を通じて、事業と社会貢献の繋がりを伝えることを意図しています。

財務情報と非財務情報が、2.2:1という割合になっていて、これは一般的な統合報告書の割合が1.5〜2:1となっていることから、多くのページを企業のマインドや未来への戦略に割いているのがわかります。

2.日本航空株式会社 (JAL) 

https://www.jal.com/ja/sustainability/report/pdf/index_2025a.pdf?20251007

「安全」と「サービス」を基軸とした構成

航空会社にとって最も重要な「安全」と「サービス」に関する情報を、重要視して開示しています。非財務資本の重要性が非常に高く、特に顧客体験や安全投資に関する情報に多くのページを割くことで、信頼回復と社会への責任を果たす意志を伝える意図があります。

未来ビジョン(長期戦略)について示す割合が約45%、非財務と財務の割合でいうと5.5:1にもなります。安全・信頼と脱炭素化を経営の最重要課題とし、社会との共存を通じた成長を訴求しており、財務情報(過去の実績)よりも、「いかにして未来の社会に不可欠な存在であり続けるか」という非財務戦略に圧倒的なリソースを割くことで、その強い意志とコミットメントを示しています。

3.富士フイルムホールディングス株式会社 

https://ir.fujifilm.com/ja/investors/ir-materials/integrated-report/main/00/teaserItems1/01/linkList/0/link/fh_2025_allj_a4.pdf

独自の技術資本とイノベーションへのコミットメントを重心とした構成

写真フィルムで培った高機能性材料技術、ケミカル技術、画像解析技術といった独自のコア技術を、現在の成長分野(ヘルスケア、高機能マテリアル)にどう応用しているかという技術ロードマップと、研究開発の体制、未来の成長を担保するための戦略的な研究投資に関する情報に多くのページが割かれています。これは、技術力こそが競争優位性の源泉であるということを示したい意図があります。技術転換・イノベーションについて示している割合は3.2:1の割合です。

未来の企業価値としては、ヘルスケア領域を中心とした成長戦略と社会貢献性が中心となり、社会の「健康」という課題に貢献し、「美と健康」の社会課題の解決をテーマに、診断・予防・治療の全領域で価値を提供する姿勢が、ESGの文脈でも強調されます。

以上紹介した3つの統合報告書は、開示の目的が「自社の最も重要な戦略を語る場所」となっており、その戦略に合わせたページ構成や表現手法を使っています。

一般的な統合報告書の型をなぞるよりも、より自社の形に添い、未来を形作るスタイルを意図していると言えるでしょう。

意図はどう伝わるのか

統合報告書に「意図」を込めるといっても、それを単に文章で記すだけでは十分に伝わりません。読み手に届くためには、ストーリーやビジュアルの工夫が必須です。

たとえば数字と文章を並べるのではなく、数字が企業のストーリーとどのようにつながっているのかを図解で示す。あるいは、長い文章で理念を語るのではなく、インフォグラフィックスや写真を通じて直感的に理解できるようにする。

こうした工夫があることで、意図は読み手にとって「体験できる」ものへと変わります。つまり、意図は書き込むものではなく、読者に「伝わる形」に変換する必要があるのです。

統合報告書に「意図」を込めるポイント

これからの統合報告書は、情報の整理や見やすさの工夫を超え、企業の「意図」をどう伝えるかが問われる段階に入っていきます。

そしてその意図は、ストーリーやビジュアルを通じて初めて伝わります。

数字とストーリーを結びつけ、企業の思いを読み手が理解・共感できる形に翻訳していくことが、これからの統合報告書の役割です。

統合報告書をより有効に活かすために、投資家や社会が本当に知りたいことは何か、自社らしさをどう表現するか、取り組みの成果をどう示せば伝わるかという三点から設計を見直してみてください。

形式に留まらず、意図を軸に据えて編集・可視化を行うことで、報告書は単なる文書から「企業そのものを語るストーリー」へと進化していきます。

企業らしさと一貫性をどう映し出すのか、経営の実態や未来の競争力をどう表現するか。

これからの統合報告書は、「意図」の深化が問われていきますよ!

統合報告書のさらなる進化予測

ここまで“意図”の重要性を見てきましたが、その延長線上にあるのが未来の統合報告書です。

今後の統合報告書はさらに進化し、読み物を超えた企業価値の提示が中心になると予想されます。物理的に情報をリッチにするベースを経て、「知りたい人へ知りたい情報が届く」ことを目的とした、情報アクセスの最適化へと移行していくのでは、と考えています。

今回の予想はとっても未来的なので、ここからは真面目に読まなくても大丈夫です(笑)

情報のパーソナライズ化とカスタム体験

  • ユーザー主導型のカスタムレポート
    • 読み手が「関心のあるテーマ」(例:気候変動、人的資本、ガバナンス)や「関心のある事業セグメント」を選択し、その情報だけを抽出・再構成した独自のレポートを自動生成する機能なんてどうでしょう。これによって統合報告書にもアナリティクスの仕組みが盛り込まれ、ステークホルダーのニーズの理解につながります。
  • AIを活用した対話型開示(チャットボット)
    • 近年サイズ感がアップしている統合報告書ですから、統合報告書の内容を学習したAIチャットボットが、ユーザーの質問に対して、報告書内の正確なデータや該当箇所を即座に提示してくれる、なんていうのも便利な形ですよね。「昨年のCO2排出量は?」「御社の女性役員比率の目標は?」と入力すると統合報告書の中からAIがアンサーを見つけてきてくれるので、検索ストレスの解消が図れます。
  • 没入型コンテンツの融合
    • 報告書の一部コンテンツに、動画を載せる、のみならず、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)技術を導入し、企業の事業現場やサステナビリティ活動を「体験」させるなんていうのも未来的です。ステークホルダーに一段上の体験をしてもらえれば、理解度が高まるのも必然です。

統合報告書は企業の理念や思い、長期的な成長を示す開示物として、意図を練り込んでデザインで伝わる形に整えていく流れになっていくでしょう。いかに読者の理解と共感を深め、企業とステークホルダーの間に強固な信頼関係を築くかが統合報告書の真核です。

伝わるための見える形を模索し続けつつも、自社の芯を掘り進める作業も同時に進めていく必要がありそうです!

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