ホリソウの上場資料を読んでみた。書いてみた。vol.1 株式会社スマサポ

この記事は、株式会社TOITOITO堀さん(ホリソウ@horisou)に寄稿いただきました。

インクデザインでは、自社サイトの枠を越えて、皆様に難しいことを「わかりやすく、おもしろく」伝えるために、社外クリエイターのコンテンツを掲載していきます。

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はじめまして。株式会社TOITOITO堀と申します。
株式会社TOITOITOは、自社サービス「ふつうごと」「osanai」の運営や、企業向けに採用や編集などのお手伝いをする会社です。
インクデザイン株式会社にお声掛けいただき、グロース市場に新規上場した企業の「事業計画及び成長可能性に関する事項*1」についてレビューすることになりました。私なりの雑感も交え、本記事にて紹介します。

*1
グロース市場の上場会社は、投資者に合理的な投資判断を促す観点から、「事業計画及び成長可能性に関する事項」について、新規上場日の開示が求められるほか、少なくとも1事業年度に対して1回以上の頻度(うち、事業年度経過後3か月以内に1回以上 )で、進捗状況を反映した最新の内容によって開示することが義務付けられています。
https://faq.jpx.co.jp/disclo/tse/web/knowledge7908.html


私も普段から、上場時の資料を読むことで、ビジネスモデルや収益性、ビジョンなどを学ぶことが多くあります。この記事でも読者の皆さんとあれこれと考察を巡らせることができればと思います。
ビジネスの経験が比較的浅い若手社会人の皆さんに読んでいただくことを想定し、なるべく平易な文章で書いています。ビジネスの知識をつけたい学生の皆さんや、学びたい社会人の皆さんも読んでいただけると嬉しいです。
今回は、株式会社スマサポ(上場日:2022年12月29日)を取り上げます。

スマサポ[9342]:事業計画及び成長可能性に関する事項 2022年12月29日(適時開示) :日経会社情報DIGITAL:日本経済新聞

株式会社スマサポの事業内容、沿革

株式会社スマサポは、株式会社宅都ホールディングス(現・株式会社 TAKUTO INVESTMENT)の100%子会社として端を発します。

もともとは不動産業におけるインターネットを活用した人材紹介事業を行なっていましたが、不動産管理会社向けソリューション提供事業を本格的に推進するため、2016年9月に現社名「株式会社スマサポ」に変更しました。

事業当初から主力事業としていたのは、入居者満足度調査サービス「スマサポサンキューコール」。

スマサポサンキューコールのビジネスモデル(株式会社スマサポ(2022年12月29日)|事業計画及び成長可能性に関する事項P14より引用)

不動産管理会社は日本全国には約32,000社あるとされていますが、その多くは小規模事業者が多いとのこと。不動産管理会社は、新しいお客さまとのやり取りだけでなく、これまで契約してきた入居者への対応も行なわなければなりません。多くはクレーム対応です。

クレーム対応は労力ばかりかかり、収益機会は皆無。しかしながら、やらなければならない仕事。
優先度も下がり、結果として入居者の満足度も低いままです。

「スマサポサンキューコール」は、入居者と不動産管理会社の間に入り、入居者対応の代行を行ないます。
クレーム対応をはじめ、入居者に対して入居の御礼・住み心地やお部屋の不具合などのアンケート調査や、インターネット回線、ウォーターサーバー設置のフォローなど、対応範囲は多岐にわたりますが、入居者にも、不動産管理会社にも、利用費用はかかりません。

無料でサービスを提供できるのは、インターネット回線、ウォーターサーバーなどを提供している会社などから、スマサポに対して顧客紹介料が入るから。
入居者は、生活インフラを整える上での申し込み作業が省略化されます。インターネット回線やウォーターサーバーを提供する提携業者にとっても、事業機会が増えるメリットは大きいでしょう。さらに不動産管理会社もクレームや問い合わせ対応が減るほか、前述の顧客紹介料の一部をマージンとしてを受け取ることができます。まさに、三方よしのビジネスモデルといえるでしょう。スマサポサンキューコールで顧客ネットワークを構築したスマサポが、現在注力しているのは入居者アプリ「totono」です。
月額10万円で管理会社に提供し、契約情報の確認やマンションの掲示板機能、マニュアル閲覧といった基本的事項から、友達紹介、各種申請など、住環境をより快適にするための仕組みをアプリ上で作っています。
また管理会社と入居者とのコミュニケーション業務も代行しています。入居者とチャットでやり取りした分だけ、スマサポは収益を得ることができます。

入居者アプリ 「totono」(スマサポ コーポレートサイトより引用)

何が成長要因になっているか

スマサポが重視している数値目標(KPI)を見ていきましょう。

資料を読むと、「主要サービスのKPIサマリー」として、事業ごとのKPIをそれぞれ設定していることが分かります。

・スマサポサンキューコール(安定収益を目指す):サービスを利用する不動産管理会社数、左記企業における新規入居者数(+架電件数)

・totono(投資領域として注力する):契約不動産管理会社数、入居者のアプリダウンロード数

主要サービスのKPIサマリー(株式会社スマサポ(2022年12月29日)|事業計画及び成長可能性に関する事項P17より引用)

2年前の新規事業として始めたtotonoが、すでに月額課金だけでも年間8,640万円の売上を見込める規模に成長しています。
前年度1.8倍の伸びが今後も続くと仮定すると、3年後には年間5億円の売上を見込めます。労働集約ではないモデルなので、初期投資を回収すれば、利益率の高い事業に早変わりします。

売上増の要素となる「チャット数×単価」は横ばいですが、それほど収益を逼迫するようなこともなさそうです。いずれにせよ、サービス拡充のタイミングで別の収益ポイントを作れると、さらにtotonoは伸びていくと思われます。

例えば「ライフスタイルの拡充」ということで、カーシェアリングとの連携は相性が良さそうです。
車に乗った分だけ収益を得る、というモデルは本サービスにも確実にプラスになるでしょう。ライフスタイル関連のサブスクリプションを手掛ける他社との連携が、成長をさらに加速させるかもしれません。

市場の見方について

投資家として魅力的なのは、優秀なビジネスモデルを有したスマサポが、まだまだ市場において「ごく一部」の顧客しか取り込んでいない点です。全体の3%弱。これが30%に伸ばすことができれば、かなりの優良企業だと見られるようになるでしょう。

不動産管理会社のニーズが高いことは証明されているので、営業力やプロモーションによって、どれだけ取り込めるかが今後ポイントになるはずです。

不動産管理会社の現状(株式会社スマサポ(2022年12月29日)|事業計画及び成長可能性に関する事項P22より引用)

実際、ポテンシャルを見込んで、ENECHANGE株式会社や大東建託パートナーズ株式会社とアライアンス契約を締結しています。

より大きな視点で見ると、現在のスマサポの成長可能性を「買う」企業も現れそうです。特に、優秀なエンジニアを保有するIT企業であれば、現在のサービスをベースにして、さらに利便性を高めることが可能だと思います。

というのも、後述する「ネックになりそうなポイント」として開発に関する懸念を感じるからです。不動産業界に知見のある経営陣である一方、より付加価値を高めていくためには、デジタルトランスフォーメーションやWeb3といった時代の変化にも対応しなければならなくなるでしょう。

今後の課題

スマサポの「新規上場申請のための有価証券報告書」を読むと、今後の課題として、営業力の強化や、技術者の安定的な採用が挙げられています。
https://www.jpx.co.jp/listing/stocks/new/co3pgt0000002aiq-att/12Sumasapo-1s.pdf

スマサポのコーポレートサイトから「採用情報」をクリックすると、ビジネスSNS「Wantedly」のページに誘導されます。

多くのビジネスパーソンにとって、転職サイトや転職エージェンシーを活用することは当たり前の時代です。エンジニアを含む多くのIT人材もユーザーとしてWantedlyを利用しており、有効な採用手法のひとつであることは間違いないでしょう。

IT人材の採用は年々難しくなっているのが現状です。ある分野に特化したエンジニアの場合、求人倍率は10〜20倍にもなるともいわれています。

これまで以上に、スマサポで働くことの魅力を十分に伝え、経営の「ヒト・モノ・カネ」におけるヒトの部分も充実させていくべきでしょう。

10年後の不動産業界を見据えた企業の打ち手として、採用が鍵になると私は感じました。

──

これからもインクデザイン株式会社のウェブサイトにて、月1〜2回を目処に更新していく予定です。よければ、ぜひ覗いてみてください。(ホリソウ)

「紙deナイト」〜デザインの定量評価について考える(コニカミノルタ「EX感性」)〜

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