こんにちは、入社したての新人です。非常に親切で素敵なインクの方々のおかげで少しずつ仕事に慣れてきた今日この頃です。
さて前回は、マテリアリティ(Materiality)について初めて学ぶ方々のために、基本的な概念や重要性をご紹介させていただきました。そして今回は実際の企業のマテリアリティマトリクスを用いながらより実践的に使えるような具体例とともにお伝えしていけたらと思います。
今回もよろしくお願いいたします!
まずは前回のおさらいもかねて、ざっくりマテリアリティマトリクスを見ていきます。
【前編】p.8では「環境課題を評価する」と記載しておりますが、マテリアリティを評価するときに用いる図のことをマテリアリティマトリクス(図1)と言います。
この図を用いることで、リストアップした課題(【前編p.6 STEP1 参照】)をより精度高く評価できます。ステークホルダーが重要視する環境課題と、自社のビジネスに与える影響が大きい環境課題は通常異なりますが、課題をマテリアリティマトリクスとして視覚化することで、両者の一致する課題を見つけやすくすることができます。
そしてその一致する課題こそが最重要課題、すなわちマテリアリティとなりうるのです。
基準とする2軸は各企業によって異なりますが、ニュアンスとしては、縦軸に「ステークホルダーにとっての(その環境課題の)重要度」、横軸は「(その環境課題が)自社の事業に与えるインパクト」のようなことを考えて作成していくと良いと思います。
そして今回の内容をより理解するために新たに1つ情報を追加させて下さい。前回の記事でマテリアリティに対する認識の変化があったということをお伝えしましたが(【前編】p.4参照)実はその認識の変化に伴いマテリアリティに関して考え方が大きく2つ存在しているのです。それをシングルマテリアリティとダブルマテリアリティと言います。(図2)
シングルマテリアリティは、主に投資家に向けた視点で、環境や社会の課題が企業活動に(リスクとして)どのような影響を及ぼすかを報告し、投資家が投資の意思決定を行う際に非常に重要な情報となります。一方、ダブルマテリアリティは、シングルマテリアリティの視点に加えて、企業活動が環境や社会にどのような影響を与えているかを、投資家のみならず、消費者や従業員などさまざまなステークホルダーに対して報告することを目的としています。
このように、シングルマテリアリティとダブルマテリアリティは、企業の責任範囲や報告対象の広がり方に違いがあり、現代の企業活動において、持続可能な発展を目指すには、社会全体への影響を含めたダブルマテリアリティの視点がますます重要視されているのです。
少し前置きが長くなってしまいましたが、、、上記の内容を踏まえた上で、
実際の企業がマテリアリティマトリクスをどのように活用し、可視化しているのかをデザイン的な観点も含めて探っていきましょう!
具体例1:株式会社メルカリ(https://about.mercari.com/sustainability/materiality/)
株式会社メルカリは、スマホ向けフリーマーケットアプリ「メルカリ」で日本国内最大のシェアを持つ企業です。
メルカリは、まずこの図に落とし込む前に自社が関与する社会・環境課題を抽出しています。そこから縦軸にステークホルダーの意思決定に与えるインパクト、そして横軸にメルカリグループが社会・環境・経済にもたらすインパクトを設定し、抽出した課題の重要度を可視化するためにマテリアリティマトリクスを用いています。
この図を用いることで「あらゆる人の可能性が発揮される世界の実現」が両軸から最も重要視されていることが一目見て分かります。
またデザイン的な観点では、マテリアリティ1つに対してアルファベットを、それらを束ねる項目ごとに色を紐付けてあり、フォントは丸みのある可愛らしい印象です。また、一見メルカリなのにみどり?と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、メルカリのカラーパレット(https://design.mercari.com/jp/hello-new-logo/)を見てみると赤と水色に加えて図に用いられているカラーも含まれています。赤の補色であるみどりをベースに用いることでメインカラーの赤を目立たせているのだと考えることもできます。このようにメルカリは企業のコーポレートカラーなども考慮してマトリクス図を作成しているのではないでしょうか。
具体例2:株式会社アダストリア(https://www.adastria.co.jp/sustainability/process/)
アダストリアは、グローバルワークやニコアンドなどグループで30を超えるブランドを国内外でおよそ1,400店舗展開するカジュアルファッション専門店チェーンです。
アダストリアはマテリアリティマトリクスを作成する前に以下の手順を行っています。
①で取り組むべき社会課題を設定した後、②でまず、縦軸であるステークホルダーにとっての関心・重要度を踏まえ優先度を評価し、その後③で横軸のアダストリアグループにとっての影響度を評価。①〜③のプロセスを経て、④においてより優先度の高い課題を選定、すなわちアダストリアグループにおける社会課題を決定しています。それらの課題の優先度を可視化したものが、アダストリアのマテリアリティマトリクスになります。デザイン的な観点で見てみると環境、人、地域、飲食、ガバナンスという項目にわけたマテリアリティそれぞれに色とアイコンを割り当てそれらを具体的な項目のテキストと共に控えめな大きさでプロットしています。アイコンを用いることで視覚的にマテリアリティの方向性がわかりやすくなっています。また、優先すべきマテリアリティ群をアールで緩やかに囲うことで包括的な印象を与えているのだと思います。
具体例3:全日本空輸株式会社(以下ANA)(https://www.ana.co.jp/group/investors/irdata/annual/)
ANAは、日本の大手航空会社で、国内線と国際線の両方の航空便を運航しています。
ANAはマトリクスに落とし込む前に以下の図の3つの視点を通して重要課題を絞り込んでいます。
そしてその視点で抽出した重要課題をマテリアリティ・マトリクスに落とし込む際に、縦軸をステークホルダーの関心/環境や社会に対するインパクト、横軸をANAグループの事業におけるインパクトとしてより自社の中での重要度の高い課題を特定しています。デザイン的な観点で見てみると具体例1.2に比べ抽象度の高い図である印象です。ANAは新型コロナウイルス感染症の影響や予測不能の環境変化が続く中、社員一人ひとりのモチベーションや自律性の高さにより工夫を凝らし、会社の危機をグループ一丸となり乗り越えてきました。そのため「人の力」「組織の力」を生み出す源泉である人的資本への投資を最重要項目と捉えており、それは両軸ともに同じ程度で重要視しているからマトリクス内には正円で表されていると見ることができます。このようにマトリクスの中にさらに図形を持ち込むことで両軸の重要度やそのカテゴリーの分布度合いを見やすくすることができます。
具体例4:トランスコスモス株式会社(https://www.trans-cosmos.co.jp/ir/library/integrated.html)
トランスコスモスは、最新のIT技術を活用して商品やサービスを販売するECサイトをはじめ、お問い合わせ窓口となるコンタクトセンターなど、ビジネスに最適なデジタル環境を提供し、お客様企業のビジネスをサポートする会社です。
まずトランスコスモスは競合企業や代表的なグローバル企業、SDGs等そして当社を取り巻く社会トレンドからマテリアリティを抽出し、それらを項目ごとにグルーピングしました。そして、縦軸にステークホルダーの関心度、横軸に当社にとっての重要度をとったマテリアリティマトリクスを作成し重要度の高い項目を重要課題として抽出しています。
デザイン的な観点で見るとグラフに数値のメモリを入れているのが特徴的です。これでマテリアリティをスコアリングし数値としてマテリアリティの優先度がわかる点が良いと思いました。また、縦軸と横軸のメモリの間隔が異なっていることから「ステークホルダーの関心度」は微細な変化も重要視されやすいのに対し、「企業にとっての重要度」はより大きなスケールで捉えられていると考えることもできます。
いかがだったでしょうか。具体例を見ることで少しでも実践的な目線でマテリアリティを捉えることができたのではないかと思います。
そろそろマテリアリティの記事はひと段落しますが【前半】【後半】の2回を通して、私のようにマテリアリティを何にも知らなかった方がより大きな視点で企業を取り巻く状況を理解し、それらの知識を活用していただけたら嬉しいです。
ありがとうございました!!!