この記事は、株式会社TOITOITO堀さん(ホリソウ@horisou)に寄稿いただきました。
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こんにちは。TOITOITO堀(ホリソウ@horisou)です。
毎月1〜2回ほど、インクデザイン株式会社のウェブサイトにグロース市場に新規上場した企業の「事業計画及び成長可能性に関する事項」についてレビューしています。
本日紹介するのは、株式会社ハルメクホールディングス(以下「ハルメクホールディングス」といいます)。シニア女性向けの月刊定期購読誌「ハルメク(以下「ハルメク誌」といいます)」の出版元として知られていますが、購読料以外でも着実に収益性を高めているようです。どんな分野に成長可能性を見出しているのか、詳しく見ていきましょう。
株式会社ハルメクホールディングス(上場日:2023年3月23日)
https://www.nikkei.com/nkd/disclosure/tdnr/20230315531335/
目次
・株式会社ハルメクホールディングスの事業内容、沿革
・何が成長要因になっているか(成長可能性と見込んでいるか)
・市場の見方について
・今後の課題
①株式会社ハルメクホールディングスの事業内容、沿革
1989年5月に設立された前身のユーリーグ株式会社。1996年に雑誌「いきいき」発刊は、現在のシニア女性向け事業の礎ともいえます。2009年には負債総額65億円で民事再生申立となりますが、事業譲渡や合併などを経て、2021年10月に現在の株式会社ハルメクホールディングスの形になりました。(なお、現在の代表取締役社長の宮澤孝夫さんは、2009年の経営再建を手掛けるため、同年に代表取締役社長に就任しています)
ハルメクホールディングスは、「50代からの女性がよりよく生きることを応援します。」と企業理念に掲げています。
・新しいことを知りたいが機会がない
・世の中のシニアサービスは『年寄り』向けばかり
・シニアになってもおしゃれがしたい。だけど勇気が出ない&やり方が分からない
といった、充足されないシニア女性のニーズを解決するための事業を展開しています。
現在ハルメクホールディングスには、6社の連結子会社があります。中でも事業の中核を担っているのが、ハルメク誌を手掛ける株式会社ハルメクです。
出版不況と言われる時代に、ハルメク誌は著しい成長性を見せています。2017年の定期購読者数は15万人に留まっていましたが、2022年12月時点では約3倍の50万人。急成長の担い手となったのは、過去に7誌の雑誌編集長を経験した編集者・山岡朝子さん。メディアで取り上げられる機会も多く、2021年6月にはハルメクホールディングスの取締役にも就任しました。
ハルメク誌は、他のシニアサービスと比べて何が特徴的なのでしょうか。山岡さんは「徹底した調査とヒアリング」を行ない、読者と近い距離感の誌面作りを意識しているといいます。象徴的なのは制作期間。月刊誌平均が3ヶ月間なのに対し、ハルメク誌は6ヶ月間です。前半の3ヶ月間を、定量アンケートや少人数のグループインタビュー、専門家へのヒアリングなど、綿密な下取材を行なうそうです。
誌面と連動し、物販での売上もハルメクホールディングスの事業の柱です。ハルメク誌と同様、顧客の声を聞くことによって、顧客の悩みや期待に答えるオリジナル商品を中高価格帯で提供、「つや髪 プラチナグレイカラー」などのヒット商品も生みました。
情報コンテンツをリアルやオンラインで体験するコミュニティサービスも含め、様々な手段でシニア女性のニーズを満たしていると言えるでしょう。
②何が成長要因になっているか(成長可能性と見込んでいるか)
ハルメクホールディングスが成長戦略として掲げているのは、ハルメク事業の強化です。情報コンテンツ、物販、コミュニティを進化させると共に、先行投資しているサービス領域の強化を目論んでいます。
特に注力しているのは、2022年8月からローンチした動画及び音声サービス「ハルメク365」です。ハルメク誌購入者には月間550円、非購入者には月間770円で提供するサブスクリプションサービスとして、シニア女性のデジタルシフトを見据えたサービス設計をしています。
しかし「ハルメク365」は、「誌面からウェブへ」という媒体の違いに止まりません。
そもそもハルメクホールディングスは、顧客を「シニア女性」と一括りにしているわけではありません。健康状態と年代の2軸で3つのフェーズに分類しています。
・プレシニア層(健康状態が良好な50〜64歳の世代)
・アクティブシニア層(健康状態が良好な65歳〜70代)
・ケアシニア層(健康状態に不安がある70代後半〜)
ハルメク事業全体の顧客の平均年齢は71歳、アクティブシニア層が中心だということが分かります。一方で「ハルメクWeb(今後「ハルメク365」に統合)」に限定すると、中心となるのは「44歳以下」「45歳以上54歳以下」のプレシニア層になります。プレシニア層がアクティブシニア層になったとき、ハルメク事業全体に売上に寄与するかは不透明です。デジタルデバイスの接触が当たり前となっている世代にとって、スマートフォンによる情報収集が今後も続くと考える方が自然でしょう。
これまでも顧客の声を聞くことを重視していたハルメクホールディングスにとって、「ハルメク365」を通じたリアルタイムデータの蓄積・活用は新規事業を生み出すチャンスです。宮澤社長は自社の強みとして、「バリューチェーンを一気通貫で持っている」ことを挙げています。誌面の企画はもちろんのこと、お客様センターや物流、会員管理機能も自社で提供する仕組みを持っているそうです。バリューチェーンを自社でコントロールできるからこそ、顧客のニーズに合わせて迅速かつ柔軟に対応することができるのでしょう。
日本における高齢者比率はますます大きくなります。「高齢者は何もしない」のでなく、これからますます高齢者はアクティブになり、シニア市場は拡大していくはずです。シニア女性の心を掴んでいるハルメクホールディングスの強みを生かし、他社が連携を模索したいと思うケースも今後増えていくでしょう。
③市場の見方について
出版や雑誌に関わっている方なら、ハルメク誌の突出した事業の伸びに誰もが驚くでしょう。2017年時点では他女性誌と同規模でしたが、コロナ禍の影響も受けず(むしろ追い風にしていたかもしれません)、年平均25%の成長率を達成しています。
「書店販売なし」「購入は1年間購読もしくは3年間購読のみ(途中解約は可能)」という、消費者にとって、高いハードルが課せられているようにも思えます。
当然ながら、徹底的に読者に向き合った企画・編集力が突出しているわけですが、もしかしたらハルメク誌が提供しているのは“雑誌ではない”のかもしれません。
事業連動による相乗効果の資料を見る限り、顧客であるシニア女性は入り口としてのハルメク誌を愛読していながら、ハルメク誌が紹介する商品や、ハルメク誌をきっかけとしたオンラインイベントや講座などに参加していることが分かります。
山岡さんが取り上げられたドキュメンタリー番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」では、インタビューに応えた読者が「雑誌は友達のようだ」と語っていました。ハルメク誌が読者にとって愛されている、つまり、ひときわロイヤリティが高い商品価値を有していることが、他サービスとの違いになっているわけです。
④今後の課題
「新規上場申請のための有価証券報告書」によると、優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題として以下3点を挙げています。
https://www.jpx.co.jp/listing/stocks/new/cg27su00000012fq-att/03halmekholdings-1s.pdf
①人材の確保・育成
②新規事業の展開
③財務体質の強化
2009年に民事再生法の申請を経験したこともあり、ファイナンスに関する危機意識は常に持っていることが分かります。直前も売上高は100億円を超えていたものの、本業ではない不動産・株式投資と自社倉庫及びシステムへの過大投資が原因となり、巨額の負債を抱えてしまうという手痛い失敗をしてしまいました。
現在の経営陣の多くは、コンサルティングや金融業界出身のメンバーで構成されています。出版やものづくりといった仕入れコストが常に発生するビジネスモデルですが、短期的にはコストに配慮しながら手堅い事業展開が期待できるでしょう。
長期的にハルメクホールディングスが成長できるかは、新規事業の展開次第だと感じます。編集者の山岡さんが出版事業を立て直したように、競合がひしめくインターネット業界でもシニア女性に支持されるかどうか。インターネットサービスを成功に導く人・組織づくりが急務の課題となるはずです。
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これからもインクデザイン株式会社のウェブサイトにて、月1〜2回を目処に更新していく予定です。よければ、ぜひ覗いてみてください。